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騎士団長殺し

☆☆☆ 村上春樹 小説

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

僕はそこそこ村上春樹ファンだと思う。若い頃にはさっぱりその面白さは分からなかったけど、大学生の頃に数十冊まとめ読みして、その作品の背後にある「物語」の大きさに惹かれた。賛否両論ある作家ではあるし、いつも同じような小道具を使うのもちょっと食傷気味だったりはするけども、日本人で彼ほど大きな「物語」の枠を描ける作家は少ない。小川洋子ぐらいだと思う。

村上春樹が描く「物語」の大きさは『1Q84』で極致に達したと個人的には思っている。『1Q84』で描かれる世界には、巨大なシステムがあり、意思を以てそれを打ち破ろうとする健全な魂があり、闘争があって愛があった。人と人との、名状しがたい身体性を持った結びつきが、揺るがない大きな「物語」を生み出していた。翻って本作はどうか。

結論から言えば「凡作」であると僕は感じた。このところ挑戦していた三人称の文体は影を潜め、昔ながらの一人称で物語は進む。いつも通り、いつも通り、どこまでも平常運転の村上春樹だった。それが悪いわけではないけれど、『1Q84』からの飛躍を──有り体に言えば彼の記念碑的傑作を期待していた僕には少々残念な出来だった。本作には何か大きなテーマが欠けているように感じる。明確な悪やシステムは出てこず、ひたすらに登場人物の内面との対話が続く。もしかしたら村上春樹は新しいチャレンジを諦めて、これまでの「集大成」を作ろうとしたのかもしれない。少し変化を感じたのはラスト。もしかしたら他者から授けられたのかもしれない、場合によっては理不尽とさえ受け取れるそれを、主人公は「恩寵」と呼ぶ。そのおおらかさ、現実との向き合い方に少しだけこれまでの村上春樹との違いを感じたのだった。